#6 僕はアホです。危ないから離れろ

 

食洗機など持っていないのに、間違えて食洗機用の洗剤を買ってしまったことがある。

 

電車内でAirPodsのバッテリーが切れたから有線のイヤホンを使おうとしたけど、iphoneのバッテリーも死にかけていたので充電を優先せざるを得ず、音楽を聴くことを諦めたことがある。

 

風呂に入って綺麗になったばかりの体でウンコをしたことがある。

 

僕は、アホだ。目の前にある小さくて大切なものに注意を向けることが苦手だし、大まかに先のことを想像する能もない。昔からそうだ。

 

もしも火星人達が僕のことを誘拐して脳みそを調べたら、「地球人はアホだから余裕で侵略できるゾヨ」などとあらぬ勘違いをしてしまうだろう。そして彼らは有り合わせの装備と少ない頭数でこの星を攻め、国連軍の反撃とかでボッコボコにされるのだ。

 

申し訳ない。僕がアホなばっかりに。

 

可哀想な火星人達は、「思ってたのと違うゾヨ」とかブツブツぼやきながらそのまま路肩に停めてたUFOに戻っていく。反重力エンジンの音だけが鳴り響く船内、帰り道の宇宙では誰一人口をきかない。開戦前に「アメリカ全土をエリア51にするゾヨ〜」みたいなこと言ってたひょうきんタイプの火星人も、せめてもの記念にと持ち帰ったネバダ州の土を涙目で見つめながら、恥ずかしさと悔しさに震えるニョロニョロの10本足でキノコ型の頭を抱えるのだ。ああ、また木星人にバカにされるゾヨ…………

 

申し訳ない。僕がアホなばっかりに。

 

人間界に救世主をつくりだすべく、神様が全人類のなかから無作為に選出した1人に全能の魔力を与えたとしよう。もしも選ばれたのが僕だったら最悪である。たとえば神様が「君に全能の魔力を与えた。いずれ使うべき時がくる。コントロールする方法を詳しく教えるから来週の説明会に来るように」と僕に伝えたとしても、出不精の僕はきっと説明会なんて参加しないからだ。そうしてそのまま時は流れ、僕は全能の魔力を与えられた人間が持つべき責任や、これから始まる『悪魔大王ガゾルノフ・ゴルバザーン』との戦いのあらまし、その他もろもろをまるで理解せぬままに日々をダラダラと過ごし続けるのだ。やがては訳の分からないタイミングでうっかり全能の魔力を暴発させることになるだろう。説明会に参加してさえいれば避けられた事態だが、後悔しても遅い。「え、なんか出た。なんで」とか言いながら、今しがた聖なる虹色のエネルギー光線で木っ端微塵に吹き飛ばしたばかりの街を目の前に泣きべソかくのが関の山である。科学のことわりを超越した力によって、罪のない人々のあたたかな日常を虚無と大差ない程に極めて小さな単位まで分解し、物理世界から完全に消し去ってしまった僕。説明会に参加していないので、きっと元に戻す方法も分からないだろう。

 

申し訳ない。僕がアホなばっかりに。

 

あなたが僕に、「ちょっとトイレ行ってくる。机の上のそれ、触らないでね。爆発しちゃうから」と言ったとしよう。僕は触る。机の上のそれは爆発し、みんな死ぬ。

 

申し訳ない。僕がアホなばっかりに。

 

昼間コンビニに行ったときにカスタード味だと思って買ったパン、さっき確認したらイチゴ味だった。僕はイチゴ味が食べられない。

 

申し訳ない。いや、別に申し訳なくはない。

 

 

もうダメだ。僕は何もしちゃいけないんだ。

 

なんでこんなにアホなんだ。

 

アホがいくら考えても結論は出ない。

 

 

なぜならアホだから。

 

 

アホだからもう寝る。