#2「お前デブすぎ!」ではなく「美味しいご飯たくさんありますよね」と言おう


僕の髪型はスキンフェードのバズカットである。頭のてっぺんあたりの髪を1センチくらいに刈り揃え、そこから下に向かってミリ単位で少しずつ毛が短くなるように調節していき、最終的には耳の辺りで長さをゼロにするという、人間の頭皮の上で黒から白へのグラデーションをつくるバカみたいな髪型だ。


僕のこの髪型を「坊主」と称する人がたまにいるが、ノー、そいつは大きな間違いである。僕の頭は坊主ではなくバズカットなのだ。どうかバズカットと言って頂きたい。


聡明なあなたは「バズカットは坊主刈りの英訳だから結局同じ意味だろ。同じ意味なら坊主でいいじゃん」とお思いかもしれないが、しかしよく考えてみてほしい。「胚に成長する前のゲル状のヒヨコを卵殻から取り出しフライパンで加熱したので食え」と、「目玉焼き作ったよ」だったら、恋人に言われたときワクワクするのはどちらの方だろうか。言葉の意味はふたつとも同じだが、僕なら断然、後者の方にワクワクする。前者の言い方からはどこか猟奇的な嗜好を感じるので、言われた瞬間「僕がコイツをなんとかしないと……」って気持ちになるだろうが、後者の言い方からは親しみや優しさを感じるので、たくさん感謝をしたくなるし、言われた瞬間お腹がすく。「僕にも何か出来ることはないかな……」って気持ちにすらなる。もういちど断っておくが前者も後者も言葉の意味は同じだ。


また、「ようこそ!沖縄へ!」と「めんそ〜れ!琉球へ!」だったら、着陸後にスチュワーデスさんに言われたときワクワクするのはどちらの方だろうか。この場合もやっぱり、後者の方に軍配が上がる。前者には「ハァ?急に話しかけられたんだが」程度の感想しか抱けないので、すれ違いざまに舌打ちしたあと飛行機のタラップを降りながらアスファルトの地面に唾でも吐きたくなるが、後者の場合は話が違ってくる。沖縄着いた瞬間に言われた「めんそ〜れ!」なんて一生忘れられない夏の思い出の1ページ目になること請け合いだ。エコノミークラスで傷めた背中もなんくるないさ〜。元気に「はいさい!」って挨拶をしたあと、巨大な回転寿司のレーンみたいなのがグルグル動いてる手荷物受け取り所までスキップである。


言葉と向き合うときには、その意味するところよりもむしろ印象の方をより重要視すべきだと僕は思う。同じ意味の言葉が複数あるときは、一番ワクワクするものを選ぶべきなのだ。「胸部」よりも「おっぱい」を、「給料」よりも「お賃金」を、「調理」よりも「クッキング」を人は選ぶべきなのだ。


あなたには、僕の髪型を「坊主」ではなく是非とも「バズカット」と呼んでほしい。


その方がお互いワクワクするからだ。